2026年10月9日金曜日

もしも猫が会社の社長で、人間が全員社員だったら

 朝、会社に着くと、社長室のいちばん日当たりのいい場所に、社長がもう座っている。

丸くなって、目は半分だけ開いている。社長の名前は「ミケ」。三毛猫である。

「おはようございます、社長」と挨拶しても、返事はない。しっぽの先がぴくっと動くだけだ。でも、社員はみんな知っている。あれは「うむ、おはよう」の意味だ。

朝礼は、だいたい三十秒で終わる

朝礼はとても短い。社長が壇上(という名の、棚の上)に登り、全社員を見渡して、あくびをする。

「……ニャ」

以上である。

この「ニャ」の解釈が、朝いちばんの重要な仕事だ。今日の「ニャ」は語尾が少し上がっていたから、「今日は穏やかに過ごせ」ということらしい。先週の「ニャ」は低くて短かったから、全員が緊張して資料を三回見直した。

社員同士はよく言い合っている。「社長の『ニャ』、今日は何点だった?」。たぶん、人間の会社の「朝礼の訓示」より、ずっとわかりやすい。

会議は、社長の気分で始まり、社長の気分で終わる

会議室に社長が入ってくる。テーブルの上に、ひょい。

社員がプレゼンの資料を広げているのに、社長はその資料の真ん中にどっかりと座り込む。画面は隠れる。数字は見えない。

「社長、そこ、売上のグラフでして……」

「……」

社長は、のんびり毛づくろいを始める。

誰も、どかしてほしいとは言わない。むしろ、全員がこう思っている。

「この会議、無理に結論を出さなくていいかもしれない」

不思議なことに、猫社長の会議は、ほとんど荒れない。怒鳴る人もいないし、延々と続く議論もない。社長が眠くなったら、そこで終わり。だから会議は、いつも予定より早く終わる。

評価制度は、とてもシンプル

人事評価はこうだ。

  • 社長の膝に乗られた人は、評価が高い
  • 社長にお気に入りの場所を提供できた人も、評価が高い
  • 社長のごはんを、遅れずに出せた人は、とても評価が高い

売上や成績表より、「社長が心地よく過ごせたか」が大事にされる。人間社会の目で見るとちょっとおかしいけれど、働く側からすると、実はわかりやすい。何を頑張ればいいかが、はっきりしているのだから。

社長の「気まぐれ」が、会社を守っている

猫社長の最大の特徴は、気まぐれなことだ。

大事な契約の日に限って、社長は朝からいない。探すと、倉庫の段ボールの中で寝ている。

「社長、今日は商談が……」

そう伝えても、社長は動かない。結局、社員だけで商談に行くしかない。

ところが、そういう日に限って、商談はなぜかうまくいく。社長がいない分、社員がそれぞれ自分の頭で考え、自分の言葉で話すからだ。

気まぐれな社長は、実は「任せる」ことがとても上手な人なのかもしれない。

定時になると、社長は消える

夕方、窓の外が少し赤くなってくる頃、社長はすっと立ち上がる。

そして、どこかへ消える。

定時の合図は、社長がいなくなること。それが、この会社のルールだ。

「社長が帰ったので、私たちも帰りましょう」

不思議なことに、残業をする人がほとんどいない。社長が先に帰ってしまうから、誰も「帰りづらい空気」を感じなくて済む。

人間の上司が最後まで残っている会社では、なかなか起こらないことだ。

猫が社長の会社は、案外、悪くないかもしれない

ここまで書いてみて、思った。

猫が社長の会社は、たしかにめちゃくちゃだ。会議は進まないし、方針は「ニャ」だけだし、肝心なときに社長は寝ている。

それでも、そこで働く人たちは、ちょっと穏やかな顔をしている気がする。

怒られない。比べられない。「頑張れ」と圧をかけられない。ただ、同じ空間に社長がいて、のんびりしている。それを見ているだけで、肩の力が少し抜けていく。

もしも本当に、猫が社長になる日が来たら。

人間は、少しだけ、優しくなれるのかもしれません。

そんなことを考えながら、今日も窓際で眠っている猫を、そっと眺めています。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます

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