2026年7月24日金曜日

もしも幻想的な水の世界があったら

日常に疲れたとき、ふと「どこか別の世界に行けたら」と考えることはないだろうか。空を飛ぶ世界、時間が止まった世界——想像はいくらでも広がるけれど、今回はひとつ、こんな世界を思い描いてみたい。

もしも、幻想的な水の世界があったら。

空も海も、境界がない世界
空も海も、境界がない世界


その世界では、空と海の境目がない。見上げれば頭上に広がるのは青い水面で、太陽の光が水を通してゆらゆらと降り注ぐ。逆に見下ろせば、深い海の底からも同じように光が差し込んでいて、上も下もわからなくなるような、不思議な浮遊感に包まれる。

人々はそこで暮らすために、魚のように水中で息ができる。重力は緩やかで、泳ぐというより「漂う」に近い感覚で移動する。急ぐ必要もない。誰もがゆっくりとした時間の中で、水の流れに身を任せて生きている。

光る生き物たちが灯りになる街
光る生き物たちが灯りになる街


その世界に夜は来るけれど、暗闇にはならない。深海魚のように発光する生き物たちが、街灯の代わりに淡い光を放っている。青白い光、桃色の光、緑がかった光——色とりどりの光が水中を漂い、まるで無数の星が海の中に降りてきたかのような景色になる。

建物は珊瑚や真珠でできていて、波に洗われるたびにやわらかく形を変える。壊れることを恐れる必要はない。すべてが水と共に呼吸しているからだ。

音のない世界で響く「気配」
音のない世界で響く「気配」


水中では音が伝わりにくいけれど、その世界の人々は言葉の代わりに「気配」でコミュニケーションを取る。相手の感情や意図が、水の揺らぎとなって伝わってくる。誰かが悲しんでいれば、周りの水がわずかに冷たくなる。誰かが笑っていれば、水が淡く光を帯びる。

言葉を使わなくても、心がそのまま伝わってしまう世界——それは便利なようで、少し怖くもある。噓をつくことも、本音を隠すこともできないからだ。

もしもこの世界に行けたら
もしもこの世界に行けたら


こんな幻想的な水の世界があったら、きっと人は「速さ」や「効率」から解放されるのではないだろうか。急がなくていい。争わなくていい。ただ水に漂いながら、光る生き物たちと一緒に、ゆっくりと生きていく。

現実にはそんな世界は存在しないけれど、想像するだけで、少し心が軽くなるような気がする。忙しい毎日の中で、ふとこんな世界に思いを馳せる時間があってもいいのかもしれない。


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2026年7月23日木曜日

もしも中国の宮殿でバグがおこったら

もしも中国の宮殿でバグがおこったら

中国の深い山々に囲まれた場所に、
長い歴史を持つ古い宮殿がありました。

朱色の柱が並ぶ広い回廊。
黒い瓦が重なる大きな屋根。

宮殿の向こうには、霧の中から突き出すように、
いくつもの奇妙な山が並んでいました。

その景色は、何百年も前から変わっていないように見えます。

しかし、ある日の夕方。
宮殿の中で、小さな異変が起こりました。

回廊を歩いていた一人の役人が、
庭に咲いている花を見て足を止めます。

風が吹いているのに、
一輪の花だけがまったく動いていませんでした。

よく見ると、その花の周囲だけ、
雨のしずくが空中で止まっています。

落ちるはずの水滴が、
透明な玉のように浮かんでいたのです。

役人が恐る恐る手を伸ばすと、
止まっていた水滴が一斉に地面へ落ちました。

その瞬間、宮殿全体から、
低く鈍い音が響きます。

朱色の柱が一瞬だけ半透明になり、
その向こうに見たことのない青い光が流れました。

壁に描かれていた龍は目を動かし、
床に映る人々の影は、本人より少し遅れて動きます。

空を飛んでいた鳥は同じ場所を何度も通り、
遠くの山から上がる霧は、途中で途切れていました。

まるで誰かが作った世界に、
小さな間違いが発生したようでした。

宮殿の人々は騒ぎ始めます。

これは天からの警告なのか。
それとも、古い宮殿に眠る力が目覚めたのか。

誰にも答えは分かりません。

やがて、宮殿の奥にある立入禁止の部屋から、
青白い光が漏れ始めました。

その部屋には、何代もの皇帝にも開けられなかった、
古い青銅の扉がありました。

扉の表面には文字ではなく、
細い線と小さな光の点が無数に並んでいます。

それは古代の模様にも見えましたが、
どこか機械の回路にも似ていました。

そして扉の中央に、
今まで存在しなかった一行の文字が浮かびます。

「この世界を修復しますか」

宮殿にいた者たちは、誰も動けませんでした。

修復すれば、異変は消えるかもしれません。

しかし、この世界そのものが作り物だったとしたら、
修復によって何が変わるのでしょうか。

自分たちの記憶も、歴史も、
宮殿の外に広がる山々さえも、
別のものに書き換えられてしまうかもしれません。

しばらくすると、青白い文字は静かに消えました。

朱色の柱は元の姿に戻り、
鳥は空の向こうへ飛び去っていきます。

止まっていた風も再び吹き始め、
庭の花が小さく揺れました。

宮殿は、何事もなかったような静けさを取り戻します。

けれど、その日から宮殿の人々は、
ときどき自分の影を確かめるようになりました。

自分と同じ速さで動いているのか。

遠くの山を流れる霧が、
途中で途切れていないか。

そして誰もいない夜の回廊では、
今でも青白い文字が一瞬だけ現れるそうです。

「次の修復まで、しばらくお待ちください」


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2026年7月22日水曜日

もしも三国志の小喬の写真を作れたら

もしも三国志の小喬の写真を作れたら

もしも三国志の時代に写真があったなら、どのような一枚が残されていただろう。

今回、写真に収めてみたいと思ったのは、江東の美姫として知られる小喬です。

小喬は、姉の大喬と並び称された美しい女性でした。

姉妹の美しさは遠くまで知られ、後世には「江東の二喬」と呼ばれるようになります。

大喬が孫策の妻となったのに対し、小喬は孫策の盟友である周瑜の妻となりました。

周瑜といえば、赤壁の戦いで曹操の大軍を打ち破った、若く才能にあふれた名将です。

そんな周瑜のそばにいた小喬は、どのような女性だったのでしょうか。

史書には、小喬の日々の暮らしや性格について、詳しい記録はほとんど残されていません。

だからこそ、その姿を想像するときには、歴史と物語の間にある静かな余白が広がります。

もしも小喬の写真を作れたら、豪華な宴の中央で微笑む姿ではなく、夜の庭園で一人、池の水面を見つめている瞬間を写してみたいと思いました。

空には淡い満月が浮かび、柳の枝が風に揺れている。

池の向こうには長江が広がり、遠くを進む軍船の灯火が霧の中にかすかに見える。

小喬は華やかな衣装を身にまといながらも、表情にはどこか静かな寂しさを浮かべています。

夫である周瑜は、多くの兵を率いて戦場へ向かう人物でした。

その帰りを待つ時間は、決して穏やかなものばかりではなかったはずです。

勝利の知らせが届く日もあれば、何の知らせもないまま夜が明ける日もあったのでしょう。

歴史の中では、武将たちの戦いや功績が大きく描かれます。

しかし、その背後には、帰りを待ち続けた人々の時間がありました。

小喬の写真を作るなら、私はその見えない時間を一枚の中に残してみたいです。

美しいだけではなく、戦乱の世を静かに生きた一人の女性として。

月明かりの下で長江を見つめる小喬の姿には、周瑜への信頼と、言葉にできない不安が同時に宿っているように感じます。

遠くから風に乗って、軍船の鐘や兵士たちの声が聞こえてくる。

小喬はその音に耳を澄ませながら、夫が戻る日を待っているのかもしれません。

歴史に残された小喬の記録は、決して多くありません。

それでも、その名は二千年近い時を越え、今も三国志の物語の中で静かに輝いています。

もしも三国志の小喬の写真を作れたら。

そこに写るのは、伝説の美女だけではありません。

戦乱の夜に愛する人の無事を願いながら、長江の向こうを見つめ続けた、一人の女性の姿なのだと思います。


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もしも三国志の大喬の写真を作れたら

もしも三国志の大喬の写真を作れたら

もしも三国志の時代に写真があったなら、
大喬はどのような姿で写っていたのでしょうか。

大喬といえば、江東を代表する美しい女性として知られています。
妹の小喬と並び、「江東の二喬」と呼ばれたほどの美貌の持ち主でした。

しかし、彼女の本当の表情や声、日々の暮らしについては、ほとんど伝わっていません。

歴史に残っているのは、孫策の妻になったことと、絶世の美女だったというわずかな記録だけです。

だからこそ、もし大喬の写真を作れたら、華やかな宴の席ではなく、誰にも見られていない静かな時間を写してみたいと思いました。

舞台は、夜の江東にある静かな庭園です。

月の光が池の水面に映り、風に揺れる柳の葉が、かすかな音を立てています。

大喬は池のほとりに立ち、遠くにある長江の流れを見つめています。

豪華な衣装をまとっていますが、その姿から感じられるのは、派手な美しさよりも、落ち着いた気品です。

長い黒髪を自然にまとめ、淡い色の衣を身につけた大喬。

誰かに名前を呼ばれたのか、肩越しに静かに振り返っています。

その表情には、少しの驚きと、言葉にできない寂しさが浮かんでいるように見えます。

大喬の夫となった孫策は、江東の小覇王と呼ばれた武将でした。

若くして江東を駆け抜け、多くの戦いに勝利しながら、自らの国を築こうとした人物です。

大喬にとって孫策は、英雄であると同時に、戦場からいつ戻るか分からない夫でもあったのでしょう。

馬の音が聞こえるたびに、帰還を期待した夜もあったかもしれません。

遠くで軍船の明かりが見えるたびに、無事を祈ったこともあったかもしれません。

けれど、孫策は若くして命を落とします。

英雄の妻として歴史に名を残した大喬ですが、その後の人生については、ほとんど記録されていません。

残された彼女が何を思い、どのような日々を過ごしたのか。

それを知ることはできません。

だから、この一枚の写真には、歴史書には残らなかった大喬の心を込めたいと思いました。

静かな庭園で、遠くを見つめる一人の女性。

彼女は絶世の美女としてではなく、大切な人の帰りを待ち、短い幸せを胸に抱きながら生きた一人の人間として、そこに立っています。

もし三国志の大喬の写真を作れたら。

そこに写るのは、華やかな伝説の美女ではなく、戦乱の時代を静かに生きた、優しく気高い女性の姿なのかもしれません。


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2026年7月21日火曜日

もしも三国志の貂蝉の写真を作れたら

貂蝉

もしも三国志の時代に写真があり、貂蝉の姿を一枚だけ残すことができたら、どのような写真になるのでしょうか。

貂蝉といえば、三国志を代表する美女として知られています。

しかし、その美しさを現代まで伝える本物の写真は残っていません。

そもそも貂蝉は、正史には登場せず、物語の中で大きな役割を与えられた人物です。

だからこそ、どのような顔をしていたのか、どのような衣装を着ていたのか、想像する楽しさがあります。

もし貂蝉の写真を作るなら、ただ華やかな美女を描くだけでは少し違うような気がします。

静かな夜の宮殿で、赤い灯籠の光に照らされながら、一人で月を見上げている姿が似合いそうです。

長い黒髪には美しい髪飾りがあり、淡い色の中国風衣装が夜風に揺れています。

その表情は優しく微笑んでいるようにも見えますが、よく見ると少しだけ悲しそうです。

貂蝉は、王允の計画によって呂布と董卓の間に送り込まれました。

絶世の美女として語られていますが、物語の中では自分の美しさを武器として使わなければならなかった人物でもあります。

豪華な宮殿に暮らしていても、心の中まで華やかだったとは限りません。

董卓に見られているときの貂蝉。

呂布と二人で話しているときの貂蝉。

そして、誰もいない場所で一人になったときの貂蝉。

同じ人物でも、写真に写る表情はまったく違っていたかもしれません。

私が作ってみたいのは、誰かを誘惑している場面ではありません。

争いの始まる前、誰にも見られていない庭園で、貂蝉が静かに立っている一枚です。

池の水面には月が映り、遠くには宮殿の明かりが見えます。

貂蝉は振り返るようにこちらを見ていますが、その目にはこれから起こる出来事への迷いが浮かんでいます。

それは、美しさを記録するための写真ではありません。

歴史に翻弄された一人の女性が、確かにそこにいたことを残すための写真です。

もしその一枚が現代に残っていたなら、私たちは貂蝉を絶世の美女として見るだけではなく、その表情の奥にある感情まで想像していたかもしれません。

本当に貂蝉が存在したのかは分かりません。

それでも、三国志の物語を読むたびに、彼女は何度でも美しく、そして少し悲しい姿で現れます。

もし三国志の貂蝉の写真を作れたら。

私は、豪華さよりも静けさを感じる一枚にしたいと思います。

美しさの中に、決意と迷いを隠した貂蝉。

そんな写真があれば、三国志の物語がこれまでとは少し違って見えるかもしれません。


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2026年7月18日土曜日

もしも三国志の孫尚香の写真を作れたら

もしも三国志の孫尚香の写真を作れたら

もしも、三国志の時代を写すことのできるカメラがあったなら。

私は一度、孫尚香の写真を作ってみたいと思う。

孫尚香は、呉を治めた孫権の妹であり、劉備の妻となった女性として知られている。

しかし、その人物像には今も多くの謎が残されている。

物語の中では、武芸を好み、気の強い女性として描かれることが多い。

部屋の前には武装した侍女たちが並び、劉備でさえ簡単には近づけなかったという話もある。

そんな孫尚香を写真にできるなら、華やかな宮殿の中ではなく、長江のほとりに立つ姿を写してみたい。

風になびく赤い衣装。

腰には剣を下げ、遠くの水面を静かに見つめている。

表情には武将の一族として生まれた誇りと、時代に運命を決められてしまった女性の寂しさが浮かんでいる。

孫尚香は、自分の意思だけで劉備のもとへ嫁いだわけではない。

その結婚には、呉と劉備の勢力を結びつける政治的な意味があった。

もし本当の写真が残っていたなら、そこに写るのは勇ましい姫君だけではないはずだ。

故郷である呉を思う気持ち。

劉備との間にあった複雑な距離。

そして、自分では選ぶことのできなかった未来への迷い。

写真という一瞬の中に、さまざまな感情が残されているような気がする。

現代では、孫尚香の本当の顔を知ることはできない。

残された記録も少なく、どのような声で話し、どのような表情で笑ったのかも分からない。

それでも想像の中なら、長い歴史の向こう側にいる彼女の姿を作ることができる。

長江を渡る風の中で、静かに故郷を見つめる孫尚香。

その写真を見たとき、三国志は英雄たちの戦いだけではなく、時代に翻弄された一人の女性の物語でもあったのだと感じるのかもしれない。


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2026年7月16日木曜日

もしも三国志の趙雲を神格化したら

もしも三国志の趙雲を神格化したら

長坂の戦場には、終わりの見えない砂煙が立ち込めていた。

折れた槍、倒れた軍旗、逃げ惑う人々。

その混乱の中を、一騎の白馬がまっすぐに駆け抜けていく。

馬上にいるのは、白銀の鎧をまとった趙雲だった。

腕には幼い阿斗を抱き、もう片方の手には一本の槍が握られている。

敵兵が幾重にも道を塞いでも、趙雲の足は止まらなかった。

それは勇敢だからではない。

自分の命よりも、守ると決めた命のほうが重かったからだ。

もしも、そんな趙雲が神格化されたなら。

彼は戦いを求める荒々しい軍神ではなく、弱き者の前に立つ守護神になるのかもしれない。

白銀の鎧には一つの汚れもなく、長い白布が風に揺れる。

手にした龍の槍は、敵を倒すためではなく、大切な者へ伸びる災いを退けるためのものだった。

趙雲が白馬を進めるたび、戦場を覆っていた黒い雲が左右に割れていく。

空から差し込む青白い光は、彼の進む道だけを静かに照らした。

敵の矢は届く前に光となって消え、燃え上がる炎も白馬の足元では鎮まっていく。

その背後には、傷ついた兵士や逃げ遅れた民たちが集まっていた。

趙雲は振り返らない。

ただ前を見つめ、誰一人として置き去りにしない速度で進み続ける。

神となっても、彼は高い玉座には座らないだろう。

豪華な宮殿で祈りを待つこともない。

助けを求める声が聞こえれば、白馬とともに嵐の中へ現れる。

絶望に囲まれ、もう逃げ道がないと思ったとき。

遠くから白い軍旗が見え、地面を揺らす馬の足音が近づいてくる。

そして白銀の神将は、静かに槍を構える。

「ここから先へは、一歩も通さぬ」

その言葉には、怒りも誇りもなかった。

ただ、守ると決めた者の揺るがない覚悟だけがあった。

趙雲が神格化された世界では、勇気とは敵を恐れないことではない。

恐怖の中でも、大切な誰かを見捨てないことなのだろう。

白馬に乗った守護神は、今日も戦場の向こうへ駆けていく。

名誉のためでも、勝利のためでもない。

たった一つの命を、無事に未来へ届けるために。


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2026年7月15日水曜日

もしも三国志の三国志 許褚を神格化したら

もしも三国志の三国志 許褚を神格化したら

夜の大地を、重い足音が揺らしていた。

戦場には折れた槍と砕けた盾が転がり、遠くでは赤い炎が風にあおられている。

その荒れ果てた地の中央に、巨大な男が立っていた。

許褚。

かつて曹操のそばを守り続け、虎のような力を持つと恐れられた武将である。

だが、その夜の許褚は、もはや人の姿だけには見えなかった。

厚い甲冑の隙間から金色の光が漏れ、肩の周囲には白い蒸気のような神気が漂っている。

両手で握る巨大な鉄槌には、古い傷が無数に刻まれていた。

それは敵を倒した数ではない。

主君へ届くはずだった刃を、何度も受け止めてきた証だった。

許褚の背後には、巨大な白虎の姿が浮かんでいる。

白虎は牙をむき、低い唸り声を響かせながら、暗闇の向こうをにらんでいた。

しかし許褚自身は、怒りに任せて暴れることはなかった。

ただ静かに、曹操のいる陣営の前へ立っている。

敵が一人なら、一人を止める。

百人なら、百人を止める。

たとえ大地が割れ、空から雷が落ちても、その場所を動くつもりはなかった。

許褚が神となるなら、それは勝利を与える神ではないのかもしれない。

背後にいる者を守り、迫る災いをその身で受け止める、守護の神である。

豪快な力の奥には、誰よりも単純で、誰よりも揺るがない忠義があった。

やがて敵軍の中から、一本の矢が放たれた。

矢は暗い空を切り裂き、曹操の陣へ向かって飛んでくる。

許褚は振り返らなかった。

巨大な腕を上げ、その矢を素手でつかんだ。

次の瞬間、背後の白虎が天へ向かって咆哮した。

地面が震え、敵兵たちの足が止まる。

炎の中に立つ許褚の姿は、まるで人の世へ降りた山そのものだった。

どれほど時代が乱れても、守ると決めた場所から退かない。

それが、神格化された許褚の力だった。

夜明けが近づくころ、戦場を覆っていた雲の隙間から、一本の光が差し込んだ。

その光を受けても、許褚は前を向いたままだった。

守るべき者が背後にいるかぎり、虎の神が眠ることはない。


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2026年7月14日火曜日

もしも花火大会でバグが発生したら

もしも花火大会でバグが発生したら

夏の夜、町でいちばん大きな花火大会が始まろうとしていた。

川沿いには屋台が並び、焼きそばの香りと、子どもたちの楽しそうな声が広がっていた。

浴衣姿の人々は夜空を見上げながら、最初の一発が打ち上がる瞬間を待っている。

やがて、川の向こうから低い破裂音が響いた。

一筋の光が暗い空へ昇り、大きな花火が開いた。

赤、青、金色の光が夜空いっぱいに広がり、少し遅れて大きな音が町を揺らす。

誰もが歓声を上げた、その直後だった。

夜空に咲いた花火が、消えなかった。

普通なら数秒で消えるはずの光が、空に貼り付いたように動きを止めている。

次の花火も打ち上がった。

しかし、その花火も開いた瞬間に止まり、最初の花火と並んで夜空に残り続けた。

三発目、四発目、五発目。

花火が上がるたび、空には色鮮やかな光の模様が増えていく。

「今年は、こういう演出なのかな」

誰かが笑いながら言った。

けれど、会場に流れていた音楽は同じ数秒間を繰り返し始めていた。

太鼓の音が途中で途切れ、少し前に戻り、また同じ場所で途切れる。

屋台の提灯は不規則に点滅し、川の水面には存在しないはずの文字や四角い光が浮かび始めた。

そのとき、夜空に残っていた花火が一斉に揺れた。

丸い形が崩れ、細かな光の粒が四角い欠片へ変わっていく。

まるで空そのものが壊れ、向こう側から別の景色が漏れ出しているようだった。

花火の隙間には、昼間の青空が見えていた。

別の場所には満天の星が広がり、さらに遠くには、見たこともない巨大な町の明かりが浮かんでいる。

同じ夜空の中に、いくつもの時間と景色が混ざり始めていた。

人々の歓声は消え、会場には不安そうなざわめきだけが残った。

スマートフォンを空へ向けても、画面には花火が映らない。

代わりに表示されていたのは、真っ暗な空と、短い一文だった。

「この夏は、すでに終了しました」

誰かのスマートフォンから、同じ文章を読み上げる機械音声が聞こえた。

すると、空に残っていた花火が一つずつ消え始めた。

赤い花火が消えると、屋台からリンゴ飴が消えた。

青い花火が消えると、川の流れる音が聞こえなくなった。

金色の花火が消えると、人々の浴衣から色が抜け落ちた。

花火が消えるたびに、夏の夜を作っていたものが一つずつ失われていく。

最後に残ったのは、空の中央に浮かぶ小さな白い花火だった。

それは派手に輝くことも、大きな音を立てることもなく、静かに瞬いていた。

会場にいた一人の子どもが、その花火へ向かって手を振った。

「まだ終わってないよ」

その声が聞こえた瞬間、白い花火はゆっくりと大きく広がった。

消えていた川の音が戻り、屋台の明かりが再びともる。

夜空に混ざっていた別の時間や景色も、光の向こうへ吸い込まれるように消えていった。

そして何事もなかったかのように、次の花火が打ち上がった。

人々はもう一度歓声を上げたが、誰も先ほどの出来事について話そうとはしなかった。

ただ、花火大会が終わったあとも、何人かのスマートフォンには同じ通知が残っていた。

「夏の終了処理を中断しました」

もしかすると、あの夜に発生したバグは、夏を終わらせるためのものだったのかもしれない。

そして私たちは、知らないうちに、もう少しだけ夏を延長してしまったのだ。


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2026年7月13日月曜日

もしも田舎の駅でバグが発生したら

もしも田舎の駅でバグが発生したら

山と田んぼに囲まれた、小さな無人駅だった。

一日に数本しか列車が止まらず、聞こえてくるのは風に揺れる草の音と、遠くで鳴く鳥の声だけだった。

古びたホームの時計は、午後三時十七分を指している。

少年が駅へ着いたときも、時計の針は静かに止まっていた。

故障しているのだろうと思い、少年は木のベンチへ腰を下ろした。

やがて、遠くから踏切の音が聞こえてきた。

カン、カン、カン。

けれど、線路の向こうに列車の姿はなかった。

踏切の音だけが、同じ間隔で繰り返されている。

少年が不思議に思って立ち上がると、ホームの端に一人の少女が立っていた。

白いワンピースを着た少女は、線路の先をじっと見つめている。

さっきまで、あんな場所には誰もいなかったはずだった。

「列車を待っているの?」

少年が声をかけると、少女はゆっくり振り返った。

「ずっと待っているの」

少女はそう答えた。

その瞬間、駅の風景がわずかに揺れた。

田んぼの上を飛んでいた鳥が空中で止まり、風に揺れていた草が同じ動きを繰り返し始めた。

ホームの時計が、一秒だけ進む。

午後三時十八分。

ところが次の瞬間には、再び三時十七分へ戻っていた。

少年は自分の目を疑った。

踏切が鳴り、鳥が止まり、草が揺れ、時計が戻る。

駅の周囲では、同じ数秒間が何度も繰り返されていた。

「ここから出ないと」

少年が言うと、少女は静かに首を振った。

「駅の外へ出ても、またホームに戻ってくるよ」

試しに階段を下り、駅前の細い道へ出てみた。

古い自動販売機を通り過ぎ、田んぼの間の道を走った。

それなのに、曲がり角を曲がった先にあったのは、さっきまでいた駅のホームだった。

時計は午後三時十七分を指している。

少女は変わらず、線路の先に立っていた。

「どうして、ここにいるの?」

少年が尋ねると、少女は遠い昔を思い出すように目を細めた。

「迎えに来てくれる人がいるから」

その言葉と同時に、今度は本当に列車の音が聞こえた。

けれど現れた列車は、少年の知っているものとは違っていた。

窓の中には誰もおらず、車体の一部が空の景色に溶けるように消えている。

列車は音もなくホームへ入り、少女の前で扉を開いた。

少女は少年を見て、少しだけ笑った。

「これで、時間が動くかもしれない」

少女が列車へ乗り込むと、扉が静かに閉じた。

列車は線路の先へ進み、夕暮れの光の中へ消えていった。

踏切の音が止まり、鳥が再び空を飛び始める。

ホームの時計は午後三時十八分を指し、そのままゆっくりと針を進めていた。

やがて、いつもの古い列車が駅へ到着した。

少年は何も言わずに乗り込み、窓の外へ目を向けた。

小さな駅が遠ざかっていく。

ホームには、もう誰も立っていなかった。

ただ、古びた駅名標の文字だけが一瞬乱れ、見たことのない駅名へ変わった。

そして次に瞬きをしたときには、何事もなかったように元の文字へ戻っていた。

田舎の駅では今日も、静かな時間が流れている。

けれど午後三時十七分になると、ときどき列車の来ない踏切が鳴るという。


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