わが家には、いつも窓辺で丸くなっている猫がいます。
名前を呼べば、尻尾の先だけで返事をする。ごはんの時間になると、これでもかというくらい足元をぐるぐる回る。何を考えているのかわからないのに、なぜか目が合うだけで心が少しゆるむ。そんな不思議な存在です。
ふとした夜、こんなことを考えました。
もしも猫が、たった一日だけ人間の言葉をしゃべれたら。
今日はそんな「もしも」の話を、のんびり書いてみようと思います。
朝いちばんに言われそうなこと
きっと最初のひとことは、こうです。
「おはよう。ごはん、まだ?」
挨拶の次にごはんの催促。ここは絶対に変わらない気がします。いつも朝の五時半ごろに、枕元でそっと前足を乗せてくるのは、「おなかがすいた」という切実な訴えだったのでしょう。
それがはっきり言葉になると、「あ、ごめん、そんなに待たせてたんだ」と素直に思えそうです。
「それ、なに?」の質問攻めが始まる
人間の言葉がしゃべれたら、猫はきっと聞きたいことだらけだと思います。
「さっきから光ってる四角いやつ、なに? 私より大事なの?」
「どうして毎朝、あの熱い水を飲んでるの?」
「あのうるさい機械(掃除機)、なんで毎週出してくるの?」
スマホを見ている私に、ちょっと不満そうに言う姿が目に浮かびます。そう言われたら、思わずスマホを置いてしまうでしょう。
本当に聞きたいのは、あのこと
質問攻めのあとで、ちょっと真面目な顔をして猫が言うのです。
「ねえ、私のこと、好き?」
答えは決まっています。もちろん、大好きです。
でも猫のほうは、たぶんもう知っているはずです。帰宅するとそっと近づいてくること。疲れて座り込んだ膝に、黙ってのってくること。落ち込んだ夜に、何も言わず隣にいてくれること。
言葉がなくても、ずっと伝えてくれていたんだな、と思います。
意外と辛口かもしれない
いっぽうで、言葉がしゃべれたら猫はけっこう辛口かもしれません。
「その服、昨日も着てたよね」
「夜更かしはよくないって、毎晩言ってるのに」
「おやつ、人間のほうが多く食べてない?」
痛いところを突かれて、ぐうの音も出ないでしょう。猫は正直です。お世辞なんて言いません。
だからこそ、「今日のごはん、おいしかったよ」と言われたら、きっと何倍もうれしいはずです。
夜、窓辺でのんびり話す
一日の終わり、部屋の明かりを少し落として、窓辺に二人で座る。
「今日は楽しかった?」と聞くと、猫は少し考えて、こう答えるかもしれません。
「うん。いつもと同じで、すごくよかった」
特別なことは何もない、いつもの一日。それでも猫にとっては、ごはんがあって、日向があって、そばに私がいる、それだけで満点なのでしょう。
そう聞いたら、私のほうが救われてしまいそうです。
次の日、また言葉がなくなっても
翌朝、猫はまたいつもの「ニャア」に戻ります。
でも、きっともう大丈夫です。言葉がわからなくても、尻尾の揺れ方や、目の細め方や、喉を鳴らす音で、何を言いたいのか少しずつ読み取れるようになる気がします。
もしかしたら猫は、一日だけしゃべれる代わりに、私に「ちゃんと見ていてね」と伝えたかったのかもしれません。
おわりに
猫が人間の言葉をしゃべれたら、きっと世界はもっと賑やかになります。
でも今のままの、言葉のない距離感も、私はとても好きです。
言葉にならない気持ちを、そっと受け取る。そんな時間があるから、猫と暮らす毎日は、どこかやさしいのだと思います。
今日もうちの猫は、窓辺で丸くなっています。
名前を呼ぶと、尻尾の先がちょこんと動きました。
きっと、「はいはい、聞こえてるよ」という返事です。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます
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