静かな振動だけが体に伝わる宇宙船の中で、ゆっくりと窓の外を見た。
そこには、地球とはまったく違う表情をした星が浮かんでいる。
金星。
遠くから見ると、やわらかなクリーム色の光をまとった、美しい星だ。
どこか優しく、どこか神秘的で、思わず見とれてしまう。
けれど、その静かな美しさの奥には、想像もできないほど過酷な世界が広がっているらしい。
分厚い雲に覆われ、地表は灼熱で、鉛さえ溶けるほどの温度。
嵐のように吹き荒れる風と、押しつぶされそうな大気。
そんなことを頭では理解しているのに、目の前の金星は、ただ静かに輝いているだけだった。
もしかしたら――
遠くから見えるものほど、美しく見えるのかもしれない。
人の人生も、同じなのだろうか。
誰かの生き方や、誰かの日常は、外から見ると輝いて見える。
でも、その中にはきっと、言葉にできない熱や重さがある。
宇宙船の窓に映る自分の顔を見ながら、そんなことを考える。
もしも、あの金星に降り立つことができたら。
きっと、その美しさの印象は、一瞬で変わるだろう。
でも――だからこそ思う。
遠くから眺める美しさも、
近づいて知る現実も、
どちらも本当の姿なんだと。
宇宙船は静かに進み続ける。
金星は変わらず、やわらかな光を放っている。
その光を見つめながら、
自分の見ている世界も、少しだけ深くなった気がした。
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