夜の街は、光でできている。
ネオンが滲むアスファルト、ビルの隙間から漏れる白い光、絶え間なく行き交う人の波。
スマートフォンの画面に視線を落としながら、人々はそれぞれの時間を歩いている。
そんな中に、ふと違和感が混ざる。
黒。
統一された黒の羽織。
背に浮かび上がる、あの独特の白い山形模様。
誰かが顔を上げる。
「あれ、コスプレ?」と小さく呟く声。
けれど、その空気はどこか違う。
彼らは静かに、しかし確かな足取りで歩いている。
無駄な動きが一切ない。
視線はまっすぐ前へ、周囲に流されることもなく、ただ一本の線のように進んでいく。
まるでこの雑踏が、最初から存在していないかのように。
先頭を歩く男が、ほんのわずかに足を止める。
後ろの者たちも、それに合わせて自然に止まる。
言葉はない。
だが、そこには確かに統率がある。
信号が変わる。
赤から青へ。
人々が一斉に動き出すその瞬間、彼らもまた歩き出す。
ただ、それだけのことなのに、空気が少し張り詰める。
すれ違う人が、無意識に道を空ける。
理由はわからない。ただ、本能のような何かがそうさせる。
剣は、もう抜かれることはない時代。
それでも彼らの腰には確かに存在している気配がある。
見えないはずの重みが、そこにある。
ビルのガラスに映るその姿は、どこか現実から切り離されていて、
この街の一部でありながら、決して交わらない存在のようにも見える。
もしも、彼らがこの時代に現れたとしたら。
きっと、何も語らない。
ただ歩くだけだ。
己の信じるもののために、
ただ真っ直ぐに。
ネオンの海の中を、
時代の隙間を縫うように。
音もなく、風のように。
そして気づけば、もういない。
さっきまで確かにそこにあったはずの「気配」だけを残して、
現代の夜は、また何事もなかったかのように流れていく。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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