2026年7月13日月曜日

もしも田舎の駅でバグが発生したら

もしも田舎の駅でバグが発生したら

山と田んぼに囲まれた、小さな無人駅だった。

一日に数本しか列車が止まらず、聞こえてくるのは風に揺れる草の音と、遠くで鳴く鳥の声だけだった。

古びたホームの時計は、午後三時十七分を指している。

少年が駅へ着いたときも、時計の針は静かに止まっていた。

故障しているのだろうと思い、少年は木のベンチへ腰を下ろした。

やがて、遠くから踏切の音が聞こえてきた。

カン、カン、カン。

けれど、線路の向こうに列車の姿はなかった。

踏切の音だけが、同じ間隔で繰り返されている。

少年が不思議に思って立ち上がると、ホームの端に一人の少女が立っていた。

白いワンピースを着た少女は、線路の先をじっと見つめている。

さっきまで、あんな場所には誰もいなかったはずだった。

「列車を待っているの?」

少年が声をかけると、少女はゆっくり振り返った。

「ずっと待っているの」

少女はそう答えた。

その瞬間、駅の風景がわずかに揺れた。

田んぼの上を飛んでいた鳥が空中で止まり、風に揺れていた草が同じ動きを繰り返し始めた。

ホームの時計が、一秒だけ進む。

午後三時十八分。

ところが次の瞬間には、再び三時十七分へ戻っていた。

少年は自分の目を疑った。

踏切が鳴り、鳥が止まり、草が揺れ、時計が戻る。

駅の周囲では、同じ数秒間が何度も繰り返されていた。

「ここから出ないと」

少年が言うと、少女は静かに首を振った。

「駅の外へ出ても、またホームに戻ってくるよ」

試しに階段を下り、駅前の細い道へ出てみた。

古い自動販売機を通り過ぎ、田んぼの間の道を走った。

それなのに、曲がり角を曲がった先にあったのは、さっきまでいた駅のホームだった。

時計は午後三時十七分を指している。

少女は変わらず、線路の先に立っていた。

「どうして、ここにいるの?」

少年が尋ねると、少女は遠い昔を思い出すように目を細めた。

「迎えに来てくれる人がいるから」

その言葉と同時に、今度は本当に列車の音が聞こえた。

けれど現れた列車は、少年の知っているものとは違っていた。

窓の中には誰もおらず、車体の一部が空の景色に溶けるように消えている。

列車は音もなくホームへ入り、少女の前で扉を開いた。

少女は少年を見て、少しだけ笑った。

「これで、時間が動くかもしれない」

少女が列車へ乗り込むと、扉が静かに閉じた。

列車は線路の先へ進み、夕暮れの光の中へ消えていった。

踏切の音が止まり、鳥が再び空を飛び始める。

ホームの時計は午後三時十八分を指し、そのままゆっくりと針を進めていた。

やがて、いつもの古い列車が駅へ到着した。

少年は何も言わずに乗り込み、窓の外へ目を向けた。

小さな駅が遠ざかっていく。

ホームには、もう誰も立っていなかった。

ただ、古びた駅名標の文字だけが一瞬乱れ、見たことのない駅名へ変わった。

そして次に瞬きをしたときには、何事もなかったように元の文字へ戻っていた。

田舎の駅では今日も、静かな時間が流れている。

けれど午後三時十七分になると、ときどき列車の来ない踏切が鳴るという。


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