ある日の夕方、空が少しだけ止まっていた。
雲は流れているはずなのに、同じ形のままそこに浮かんでいた。
鳥は羽ばたいているのに、まるで透明な壁にぶつかったみたいに、空の途中で同じ場所を回っていた。
最初は、目の疲れかと思った。
スマホの見すぎかもしれない。
夕焼けがまぶしすぎるだけかもしれない。
けれど、空の端を見たとき、私は息を止めた。
青と橙のグラデーションが、途中で四角く切れていた。
まるで画像の読み込みに失敗したみたいに、空の一部だけが粗いモザイクになっている。
そこだけ、世界がうまく表示されていなかった。
電線の向こうで、雲が一瞬だけ巻き戻る。
さっき通り過ぎたはずの飛行機雲が、また同じ場所に現れる。
夕日が沈みかけたと思ったら、少しだけ上に戻る。
空で、バグが発生していた。
でも、不思議と怖くはなかった。
街はいつも通りだった。
自転車のベルが鳴り、コンビニの明かりがつき、遠くで電車の音がした。
誰かの家から夕飯の匂いが流れてきて、信号は何事もないように赤から青へ変わった。
壊れているのは、空だけだった。
それでも人は、あまり上を見ない。
足元の段差を気にして、スマホの通知を気にして、明日の予定を気にして歩いていく。
こんなにも大きな異常が頭上に広がっているのに、ほとんどの人は気づかない。
私は歩道橋の上で立ち止まり、空を見上げた。
欠けた空の向こう側には、何があるのだろう。
世界の裏側だろうか。
それとも、誰かがこの世界をそっと修正している途中なのだろうか。
モザイクの空は、ゆっくりと元に戻っていった。
四角く乱れていた夕焼けが、少しずつなめらかになり、雲は何もなかったように流れ始める。
鳥もまた、普通の空へ戻っていく。
けれど私は、もう前と同じようには空を見られなかった。
青空も、夕焼けも、夜空の星も。
当たり前にそこにあるようで、本当は毎日きちんと表示されている奇跡なのかもしれない。
もしも空でバグが発生したら。
それは世界の終わりではなく、世界がまだ動いている証拠なのかもしれない。
たまにはスマホをしまって、空を見上げてみる。
そこに何も起きていなくても、それだけで少しだけ、見慣れた世界が不思議に見える。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます
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