町の外れに、誰も近づかない空き地があった。
昔は小さな公園だったらしい。
けれど遊具は錆び、ベンチには苔が生え、夕方になると風だけがそこを通り抜けていた。
そんな場所に、ある日、すごく大きな黒猫が現れた。
犬よりも大きい。
人よりも、もっと大きい。
古い家の屋根くらいの背丈があって、長いしっぽがゆっくり揺れるたび、草むらが波のように動いた。
最初に見つけた人は、声も出せなかった。
黒猫は空き地の真ん中に座り、金色の目で町をじっと見ていた。
けれど、不思議と怖くはなかった。
その黒猫は、何かを壊すわけでもない。
誰かを追いかけるわけでもない。
ただ、静かにそこにいるだけだった。
子どもたちは遠くから見た。
大人たちは窓の隙間から見た。
おばあさんは買い物袋を持ったまま、しばらく足を止めた。
黒猫は、まるで町の古い秘密を知っているような顔をしていた。
夜になると、その大きな黒猫は空き地に丸くなった。
黒い体は夜と混ざり、金色の目だけが小さな灯りのように光っていた。
不思議なことに、その夜から町は少し静かになった。
言い争いをしていた人たちは、声を小さくした。
急いでいた人たちは、少しだけ空を見上げるようになった。
泣きそうだった子どもは、黒猫の背中を見て、なぜか安心した。
誰も、その猫がどこから来たのか知らなかった。
名前もなかった。
飼い主もいなかった。
それでも町の人たちは、いつの間にかその黒猫を受け入れていた。
雨の日には、黒猫は大きな体で空き地の木をかばうように座った。
風の強い日には、町へ吹き込む冷たい風を少しだけ止めているように見えた。
月のきれいな夜には、黒猫は屋根より高い場所に顔を上げ、じっと空を見ていた。
その姿は、猫というより、夜そのものが形を持ったみたいだった。
もしも、すごく大きな黒猫がいたら。
きっとそれは、ただ大きいだけの猫ではない。
町の寂しさをそっと吸い込み、誰にも言えない不安のそばに、黙って座ってくれる存在なのかもしれない。
撫でるには大きすぎる。
抱きしめるには遠すぎる。
それでも、そこにいてくれるだけで、少しだけ心が落ち着く。
そんな黒猫が、今日も町の外れで丸くなっている。
まるで、夜がやさしく息をしているみたいに。
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