2026年5月11日月曜日

もしもすごく大きな黒猫がいたら

すごく大きな黒猫

町の外れに、誰も近づかない空き地があった。

昔は小さな公園だったらしい。
けれど遊具は錆び、ベンチには苔が生え、夕方になると風だけがそこを通り抜けていた。

そんな場所に、ある日、すごく大きな黒猫が現れた。

犬よりも大きい。
人よりも、もっと大きい。
古い家の屋根くらいの背丈があって、長いしっぽがゆっくり揺れるたび、草むらが波のように動いた。

最初に見つけた人は、声も出せなかった。
黒猫は空き地の真ん中に座り、金色の目で町をじっと見ていた。

けれど、不思議と怖くはなかった。

その黒猫は、何かを壊すわけでもない。
誰かを追いかけるわけでもない。
ただ、静かにそこにいるだけだった。

子どもたちは遠くから見た。
大人たちは窓の隙間から見た。
おばあさんは買い物袋を持ったまま、しばらく足を止めた。

黒猫は、まるで町の古い秘密を知っているような顔をしていた。

夜になると、その大きな黒猫は空き地に丸くなった。
黒い体は夜と混ざり、金色の目だけが小さな灯りのように光っていた。

不思議なことに、その夜から町は少し静かになった。

言い争いをしていた人たちは、声を小さくした。
急いでいた人たちは、少しだけ空を見上げるようになった。
泣きそうだった子どもは、黒猫の背中を見て、なぜか安心した。

誰も、その猫がどこから来たのか知らなかった。
名前もなかった。
飼い主もいなかった。

それでも町の人たちは、いつの間にかその黒猫を受け入れていた。

雨の日には、黒猫は大きな体で空き地の木をかばうように座った。
風の強い日には、町へ吹き込む冷たい風を少しだけ止めているように見えた。

月のきれいな夜には、黒猫は屋根より高い場所に顔を上げ、じっと空を見ていた。
その姿は、猫というより、夜そのものが形を持ったみたいだった。

もしも、すごく大きな黒猫がいたら。

きっとそれは、ただ大きいだけの猫ではない。
町の寂しさをそっと吸い込み、誰にも言えない不安のそばに、黙って座ってくれる存在なのかもしれない。

撫でるには大きすぎる。
抱きしめるには遠すぎる。

それでも、そこにいてくれるだけで、少しだけ心が落ち着く。

そんな黒猫が、今日も町の外れで丸くなっている。
まるで、夜がやさしく息をしているみたいに。


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