2026年5月16日土曜日

もしも神聖な山への入り口があったら

もしも神聖な山への入り口

もしも、神聖な山への入り口があったら。

それはきっと、町のはずれや、森の奥に、ひっそりと立っているのだと思います。

誰かが大きな声で案内してくれるわけでもなく、看板が目立っているわけでもない。

ただ、静かな空気の中に、大きな赤い鳥居が立っている。

その赤は、派手な色ではなく、長い時間を受け止めてきたような深い赤。

雨の日も、風の日も、朝日も夕暮れも見てきたような、少し重みのある赤です。

鳥居の前に立つと、なぜか声を小さくしたくなる。

ここから先は、ふつうの道ではない。

そんな気配が、言葉より先に伝わってくる気がします。

鳥居の向こうには、山の上へ続く長い石段がありました。

一段、一段、苔のついた古い階段。

両側には背の高い木々が並び、枝葉のすき間から、やわらかな光がこぼれています。

階段の先は、上へ行くほど少しずつ霧に包まれていて、どこまで続いているのかは見えません。

けれど、不思議と怖くはない。

むしろ、心の中のざわざわしたものが、少しずつ静かになっていくような場所です。

鳥居をくぐる前と、くぐった後では、空気が少し違う。

足音が小さく響いて、風の音が近くなる。

木の葉が揺れる音や、遠くで鳴く鳥の声まで、なぜかはっきり聞こえる。

まるで山そのものが、こちらを見ているような気がします。

神聖な山というのは、特別な力を見せつける場所ではないのかもしれません。

ただ、そこに入る人の心を、少しだけ正直にしてしまう場所。

急いでいた足をゆっくりにして、余計な考えをひとつずつ置いていかせる場所。

そんな山への入り口が、本当にどこかにあったら。

私はたぶん、鳥居の前でしばらく立ち止まると思います。

すぐにはくぐらず、赤い鳥居を見上げて、山へ続く階段の先を眺める。

そして、少しだけ深呼吸をしてから、一段目に足をのせる。

その先に何があるのかは、わからない。

でも、わからないからこそ、神聖に見えるのかもしれません。

大きな赤い鳥居。

山の上へ続く古い階段。

木々に包まれた静かな道。

もしも神聖な山への入り口があったら、
そこはきっと、何かを叶える場所ではなく、
忘れていた心をそっと取り戻す場所なのだと思います。


ここまで読んでくれて、ありがとうございます

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