2026年6月17日水曜日
もしも黒猫を神格化したら
もしも黒猫を神格化したら、きっとそれは、夜のすみっこに静かに座っている神さまなのだと思います。
派手な光を放つわけでもなく、大きな声で人を導くわけでもありません。
ただ、暗い部屋の片隅や、月明かりの差す窓辺にそっと現れて、何も言わずにこちらを見ている。
その姿は、少し不思議で、少し怖くて、けれどなぜか安心するものです。
黒猫は、昔からどこか神秘的な存在として見られてきました。
夜の色をそのまままとったような毛並み。
暗闇の中で静かに光る瞳。
足音も立てずに歩き、気づけばそばにいて、気づけばどこかへ消えている。
もしもそんな黒猫を神格化するなら、夜と静けさを守る神さまが似合う気がします。
名前をつけるなら、「夜守りの猫神」でしょうか。
その神さまは、人の願いを大きく叶える神ではありません。
大金が入るとか、急に人生が変わるとか、そういう派手な奇跡は起こしません。
でも、落ち込んだ夜に、少しだけ心を軽くしてくれる。
眠れない夜に、静かに寄り添ってくれる。
誰にも言えない不安を抱えた人のそばで、ただじっと座っていてくれる。
そんな小さな救いをくれる神さまです。
黒猫の神さまは、きっと立派な神社には住んでいません。
町外れの古い路地や、誰も使っていない小さな祠、雨に濡れた石畳の先にあるような場所に、静かにいる気がします。
赤い鳥居も、豪華な社も必要ありません。
古い木箱、欠けたお皿、誰かが置いていった小さな鈴。
それくらいのものがあれば、黒猫の神さまには十分なのかもしれません。
参拝の作法も、きっと難しくありません。
願いごとを大声で言う必要もありません。
ただ、静かにしゃがんで、心の中で「今日もなんとか過ごせました」と伝える。
それだけで、黒猫の神さまは細いしっぽをゆっくり揺らして、こちらを見てくれるような気がします。
そして、その瞳には不思議な力があります。
人の弱さを責めず、強がりも見抜き、悲しみも怒りも全部知ったうえで、何も言わずに受け止めてくれる。
黒猫の神さまは、正しい道を教える神ではなく、迷っている時間ごと守ってくれる神さまなのだと思います。
人はいつも前向きではいられません。
明るく頑張れる日もあれば、誰とも話したくない日もあります。
そんなとき、黒猫の神さまは無理に背中を押しません。
「休んでもいい」
「暗い場所にいてもいい」
「夜が明けるまで、ここにいてもいい」
そう言ってくれるような存在です。
もしも黒猫を神格化したら、それは幸運の象徴というより、孤独に寄り添う神さまになるのかもしれません。
明るい場所では見えにくいものを、暗闇の中でそっと見つけてくれる神さま。
にぎやかな昼では聞こえない心の声を、静かな夜に聞いてくれる神さま。
黒猫は、ただかわいいだけではありません。
少し影があり、少し謎があり、だからこそ人の心の奥に残ります。
神さまになった黒猫は、きっと今日もどこかの屋根の上で月を見ています。
そして、眠れない誰かの部屋の窓辺に、音もなく現れるのです。
何も言わず、何も求めず、ただそこにいる。
それだけで、少しだけ夜がやさしくなる。
もしも黒猫を神格化したら、そんな静かで不思議な神さまになるのだと思います。
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