2026年7月23日木曜日

もしも中国の宮殿でバグがおこったら

もしも中国の宮殿でバグがおこったら

中国の深い山々に囲まれた場所に、
長い歴史を持つ古い宮殿がありました。

朱色の柱が並ぶ広い回廊。
黒い瓦が重なる大きな屋根。

宮殿の向こうには、霧の中から突き出すように、
いくつもの奇妙な山が並んでいました。

その景色は、何百年も前から変わっていないように見えます。

しかし、ある日の夕方。
宮殿の中で、小さな異変が起こりました。

回廊を歩いていた一人の役人が、
庭に咲いている花を見て足を止めます。

風が吹いているのに、
一輪の花だけがまったく動いていませんでした。

よく見ると、その花の周囲だけ、
雨のしずくが空中で止まっています。

落ちるはずの水滴が、
透明な玉のように浮かんでいたのです。

役人が恐る恐る手を伸ばすと、
止まっていた水滴が一斉に地面へ落ちました。

その瞬間、宮殿全体から、
低く鈍い音が響きます。

朱色の柱が一瞬だけ半透明になり、
その向こうに見たことのない青い光が流れました。

壁に描かれていた龍は目を動かし、
床に映る人々の影は、本人より少し遅れて動きます。

空を飛んでいた鳥は同じ場所を何度も通り、
遠くの山から上がる霧は、途中で途切れていました。

まるで誰かが作った世界に、
小さな間違いが発生したようでした。

宮殿の人々は騒ぎ始めます。

これは天からの警告なのか。
それとも、古い宮殿に眠る力が目覚めたのか。

誰にも答えは分かりません。

やがて、宮殿の奥にある立入禁止の部屋から、
青白い光が漏れ始めました。

その部屋には、何代もの皇帝にも開けられなかった、
古い青銅の扉がありました。

扉の表面には文字ではなく、
細い線と小さな光の点が無数に並んでいます。

それは古代の模様にも見えましたが、
どこか機械の回路にも似ていました。

そして扉の中央に、
今まで存在しなかった一行の文字が浮かびます。

「この世界を修復しますか」

宮殿にいた者たちは、誰も動けませんでした。

修復すれば、異変は消えるかもしれません。

しかし、この世界そのものが作り物だったとしたら、
修復によって何が変わるのでしょうか。

自分たちの記憶も、歴史も、
宮殿の外に広がる山々さえも、
別のものに書き換えられてしまうかもしれません。

しばらくすると、青白い文字は静かに消えました。

朱色の柱は元の姿に戻り、
鳥は空の向こうへ飛び去っていきます。

止まっていた風も再び吹き始め、
庭の花が小さく揺れました。

宮殿は、何事もなかったような静けさを取り戻します。

けれど、その日から宮殿の人々は、
ときどき自分の影を確かめるようになりました。

自分と同じ速さで動いているのか。

遠くの山を流れる霧が、
途中で途切れていないか。

そして誰もいない夜の回廊では、
今でも青白い文字が一瞬だけ現れるそうです。

「次の修復まで、しばらくお待ちください」


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