2026年3月30日月曜日

もしも武田信玄と上杉謙信が花見をすることになったら

武田信玄と上杉謙信が花見

春。
桜は、何も知らない顔で咲く。

その下に並ぶ、二つの陣。

片や、甲斐の虎。
片や、越後の龍。

本来なら、幾度も刃を交えた宿敵同士。
それがなぜか、同じ場所で花見をすることになった。

——いや、花見と言っていいのかどうか。

風が吹く。
桜の花びらが、ひらりと舞う。

その美しさとは裏腹に、場の空気は凍りついていた。

酒は用意されている。
肴も並べられている。
だが、誰も手をつけない。

ただ、睨む。
ただ、探る。

一口飲めば、それが合図になるのではないか。
箸を動かせば、それが隙になるのではないか。

そんな疑念が、空気に満ちている。

「……見事な桜だ」

ぽつりと、どちらかが言った。

それは、褒め言葉のはずだった。
だが、その一言ですら、刃のように鋭く響く。

「……ああ」

短い返答。
それ以上、言葉は続かない。

沈黙。

風がまた吹く。
花びらが、二人の間に落ちる。

まるで、見えない境界線をなぞるように。

周囲の家臣たちも動かない。
笑う者など、もちろんいない。

花見とは、本来もっと穏やかなものだったはずだ。

だがここには、春の温もりはない。
あるのは、張り詰めた緊張と、わずかな均衡。

酒は、最後まで注がれないかもしれない。

いや——
もし注がれるとすれば、それは和解ではなく。

戦の前触れになるのかもしれない。

桜は、変わらず美しく散り続ける。

その下で、ただ静かに、
嵐の前のような時間だけが流れていた。

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